Journal of Amusement Mechanics

元TRPGプレイヤーがゲームシステムを中心に考察していきます。

行為判定のメカニクス

行為判定のメカニクス

 

行為判定とは、キャラクターの行為行動の成否を判定するルールである。TRPGが、プレイヤーが自由に物語を紡いでいくゲームである以上、キャラクターが選択した行動が成功するか失敗するかは、その都度判定を行って決定していく必要があり、行為判定のルールはTRPGにおける重要なメカニクスの一つである。

キャラクターの行動には、極めて簡単なもの(石を拾う)から、ほぼ不可能なもの(宇宙を創造する)まで幅広い難易度がある。成否が常識的に明らかのものは通常は行為判定を省略するが、そうでないケース、つまり成功するか失敗するかが予想できない、勝敗が拮抗したケースにおいては、行為判定が大いに活用される。宝箱に仕掛けられた危険な罠の存在を熟練した盗賊が見つけることができるのか、館の番人との駆け引きに勝利して有益な情報を聞き出すことができるのか。要所で要求される行為判定は、TRPGの華と言えるだろう。

なお、戦闘時の行為判定を戦闘ルールとして別に管理しているTRPGは多く、広義の行為判定と言える。特に、ファンタジー系のTRPGでは戦闘ルールが充実しており、基本的な行為判定ルールとは別に、戦闘に特化したルール(例えば、移動、魔法、射撃、重量制など)を組み合わせることで、戦闘時の緊張感を再現しつつ多彩な戦術に対する公平性を構築しようとしている。ここでは、一般的な判定に用いるメカニクスについて触れ、戦闘ルールについては論じない。

この項では、国内外の65種類のTRPGシステムの行為判定の種類を判定方式に基づき8種に分類し、各分類について説明する。

 

1. ダブル(上方判定)

ダイス2個の合計と補正値による修正で得られた値が、目標値(難易度)以上であれば成功とする判定メカニクスである。ダイス1個(シングル)と比較して、ダイス2個の合計値を使用することで期待値に分布が生まれ、成功確率を予測しやすい。また上方判定の特徴として、成功の度合い(どの程度うまく成功したか)が数値として明確に表現できることから、対抗ロールの処理がしやすいのもメリットの一つである。後に述べるパーセンタイルロールやカウントではこの処理が難しい。

行為判定としての採用率は36.9%と最も採用率が高く、汎用性が高いメカニクスといえる。使用されるランダマイザーとしては2D6が圧倒的に多く、代表例としてはトンネルズ&トロールズ(1975)やソード・ワールド(1989)、汎用システムであるWARPS(1987)、MAGIUS(1995)、サイコロフィクション(2008頃)を採用した各種システムが挙げられる。例外としてはりゅうたま(2007)の2DX(能力に応じてダイスの種類を変更する)が挙げられる。意外にも2D10を使ったダブル(上方判定)は見当たらない。

行為判定のメカニクス決定に困ったら、とりあえずダイス2個の合計値を使った上方判定にしておけば間違いないと言えるほど、長い歴史で愛用されている。

 

2. シングル(下方判定)

ダイス一個の値が目標値以下であれば成功とするメカニクスである。採用率は26.2 %で特に海外製TRPGに多い。このカテゴリは実質的にD100を用いたパーセンタイルロールメカニクスである。ダイス1個の一様分布と100分率を組み合わせることで、成功確率を直感的に理解できることが最大のメリットである。パーセンタイルロールでは、D100と呼ばれる100面ダイス(実際には10面もしくは20面ダイスを2個使用し片方を10の位もう片方を1の位として読む)をランダマイザーとして使用する。PCの能力を代表するパラメータがそのまま目標値のベースとなり、目標値(パラメータ)以下の数値を乱数が示せば成功となる。状況によって目標値に対して加減乗除の補正が付与される。

なお、上方判定と下方判定の違いについて考察すると、最も単純なものとしてはランダマイザーが高いほうが嬉しいか、低いほうが嬉しいかによって生じるプレイ感に差がある。更には、上方判定が、世界に普遍の目標値(難易度)が設定されておりランダマイザーがその期待値を規定し能力値やスキルボーナスが補正を加えるのに対し、下方判定は個人の発揮能力に注目し目標値自体が変動する、というコンセプトの違いがある。また、上方判定の目標値には上限がないのに対し、下方判定は目標値の限界(目標値1)が存在する。そのため、上方判定を採用しているシステムはヒロイックなTRPGに向いている一方で、下方判定を採用しているシステムはリアリスティックな印象を与える。

シングル(下方判定)の代表例としては、汎用ルールであるベーシックロールプレイングを採用したRune Quest(1978)やクトゥルフの呼び声(1981)のほか、Power & Perils(1983), Warhammer Fantasy Roleplay(1986), Middel-earth Role Playing(1986), Ecrips Phase(2009)などが挙げられ、海外製TRPGに多い傾向がある。国産TPRGの例としてはRabits & Rats(1987), アサルトエンジン(2012)がある。

 

3. 個数カウント

複数のダイスを振って条件を満たしたダイスの数を数えるメカニクス。目標値より大きい出目をカウントするパターンと目標値より小さい出目をカウントするパターンの両方があるが、カウント数が多いほど成功の度合いが高いという意味では、いずれも上方判定に属すると言ってよいだろう。大量のダイスをバラまく爽快感が魅力である。

カウントのメリットは、そのダイナミックさにもかかわらず判定値が暴れない(システムとしてバランスがとりやすい)点にある。一方で、一定のダイス目以上(以下)をカウントするとうことは、以上(以下)以外の情報は不要(コイントスの表裏で事足りてしまう)ということであり、ダイス目の意味が弱くなってしまう欠点がある。これに対しては、クリティカルやファンブルメカニクスを組み合わせるなどの追加ルールで、情報の浪費をある程度補うことができる。

採用割合は9.2%であり、代表例としてはShadowrun(1989)、天羅万象(1996)、Lady Blackbird(2009)、エモクロアRPG(2021)があり、世界観に特徴のあるTRPGに多い印象がある。トリッキーなプレイ感と相性が良いのかもしれない。

 

4. シングル(上方判定)

ダイス1個と補正値の合計が目標値以上であれば成功とするメカニクス。元祖TRPGであるダンジョンズ&ドラゴンズで採用された行為判定方法であり、長い歴史がある。シングルダイスは、ダブルダイスと比べるとランダマイザーが一様分布であり、ダイス目の影響を受ける度合いが高いため、ギャンブル性が強い。

ちなみに、TRPGの行為判定のコンセプトは、ランダマイザーベースで設計するか、能力値ベースで決定するかによってプレイ感が異なる。前者は幅が広く分布が一様のランダマイザーを使用することでダイス目の影響が大きく、後者はランダマイザーは単なる乱数発生装置であり影響が少ない。例えば、1D20をランダマイザーとして使用する場合、期待値の少し上である11を標準的な目標値とし、平目(補正値を加算減算しないダイス目)でほぼ成功率が50%となるように設定すると、五分五分の勝負を能力値ボーナスなどで判定を有利にするイメージで設計できる。これに対して、能力値と難易度が対応しているシステム、つまり能力値10のPCは難易度10の行為を成功することができることが目安になっているシステムでは、ランダマイザーの影響は小さく、あくまで不確定要素は演出の一部の位置付けとなる。どちらのコンセプトでデザインするかでプレイ感は異なる。

シングル(上方判定)の採用率は9.2%であり、代表例としてはダンジョンズ&ドラゴンズ(1974)やその系譜を引き継ぐPathfinder Role Playing Game(2009)などがある。汎用システムであるD20システム採用のTRPGが母集団に含まれていれば、さらに採用率は増えていただろうが、以外に採用しているシステムが少ない印象である。これは版権の影響か、大御所TRPGとの差別化を図るために避けられているか、行為判定におけるランダマイザーの影響が大きい点が敬遠されているのかもしれない。そのほか、1D6を使用したものとしてはスペオペヒーローズ(1992)(ただし戦闘ルールでは複数のダイスを使用した上方判定となる)、1D10を使用したものとしてはワースブレイド(1988)がある。また、特殊な例としては、ランダマイザーにトランプを使用したトーキョーNOVA(1993)があるが、数札の数字に能力値修正を加えた値が目標値を達成すれば成功となるシングル上方判定の一種と言える。

 

5. 選択

複数のダイスを振り、最も有利となるダイス目を選択するメカニクス。ダイスの数は複数が前提となり、PCの能力が高かったり有利な状況であればより多くのダイスから出目を選択することができる。多くのダイスを振ることができる爽快感がありつつ、あくまで得られるランダマイザーは使用したダイスの上限下限内に限定されるため、判定値が暴れないメリットがある。

採用率は6.2%であり、代表例としてブレイドオブアルカナ(1999)、ダブルクロス(2001)、神話創生RPGアマデウス(2015)、虚構侵食RPG(2022)などがある。また、D&D第5版の有利と不利ルールやMAGIUS(1995)の技能判定のように、他の基本メカニクスと組み合わせて使用することも可能である。

 

6. トリプル

3個のダイス目の合計を目標値と比較して行為判定を行うメカニクスである。ダブルの発展系であり、より正規分布に近い期待値が得られるほか、単純に振るダイスの数が多い楽しさがある。

採用率は3.1%であり、汎用システムであるGURPS(1986)、蓬莱学園の冒険!!(1991)が挙げられる。いずれも3D6の下方判定である。トリプルの上方判定がない理由は不明である。

 

7. マルチプル

複数個のダイス合計値を目標値と比較して行為判定を行うメカニクスである。ダブルやトリプルと異なりダイスの数は決まっておらず、PCの能力や状況によって振るダイスの数は変化する。

採用率は3.1%であり、パワープレイ(1991)やグランクエスRPG(2013)が例として挙げられる。いずれもnD6の上方判定である。

 

8. 特殊

独自のダイス処理を行うもの、ダイスを使用しないものなど、分類が難しいものをまとめて特殊とした。採用率は6.2%。

汎用システムのアップルベーシック(1990年頃)は、ファクター(能力値)もしくはスキルに応じた回数2D6を振り、ゾロ目が出た数をカウントし、多いほど達成値が高いという特殊なメカニクスを採用している。個数カウント(上方判定)の一種と言える。

CLAMP学園TRPG(1997)はトランプをランダマイザーとして使用するが、赤いスートが成功、黒いスートが失敗であり、いかなる行為も50%の成功率となる。いわばコイントス(表裏)メカニクスである。

Aの魔法陣(2004)は能力を数値でなく言葉で表現し、難易度を超える数の有効な成功要素を言葉で説明して行為判定を行う。成功要素が不足する場合はnD6ダイスによる判定を行うが、ギャンブル性が高く補助的な位置づけとなっている。シングル(上位判定)の一種であると言える。

ストリテラ(2022)はランダマイザーを使用しない。優れた演技をした場合に得られるポイントの総数で最終的な勝敗が決定する。乱数のない達成値の対抗判定(上位判定)と言える。