Journal of Amusement Mechanics

元TRPGプレイヤーがゲームシステムを中心に考察していきます。

Introduction

Tabletop Role-Playing Game(TRPG)は対話と共有されたルールに従って進める即興型のゲームジャンルの一つであり、ボードゲーム同様にアナログ環境でもプレイできる特徴がある。TRPGの要素としては、ルール・世界観・キャラクター・ゲームマスターなど挙げられるが、最も重要なものの一つがルールを構成するメカニクス(機構)である。TRPGの黎明期から現在に至るまで、数多のルールが提案あるいは実装されてきているが、それらを網羅的に評価した研究は限られている。そこで本稿では、これまでのTRPGで採用されてきたルールと、それらメカニクスが娯楽性に及ぼす影響について検討を行うことを目的とする。

 

Tabletop Role-Playing Game (TRPG) is a genre of improvisational games that are played in conversation and according to shared rules, and can be played in analog environments as well as board games. From the dawn of TRPG to the present, many rules have been proposed or implemented, but there is limited research that has comprehensively evaluated them. The purpose of this article is to examine the rules that have been used in TRPGs to date and the effects of these mechanics on amusementability.

 

TRPGの理論:三重モデル_Threefold Model

三重モデル_Threefold Model(GDS Theory)

 

「ゲームの目的は参加者全体が楽しむこと」とはよく言われるが、個人の楽しみ方は千差万別であることがしばしば論争の種となる。三重モデル(Threefold Model/GDS理論)は、1997年オンラインフォーラム"rgfa"で議論が始まり、Mary Kuhnerによって命名された理論である。これは、TRPGの参加者の目指す目標を「ドラマ」「シミュレーション」「ゲーム」の三つのスタイルに区分して説明しようとしたものである。

  • ドラマ:ストーリー。ゲームの物語性に関わる。ドラマ主義者はゲーム内の行動がいかに満足のいくストーリーを生み出すかを重視し、感動的なストーリーを生み出すためには予め設定されたシナリオに固執しない。
  • ゲーム:チャレンジ。プレイヤーがゲームの過程で直面する課題に関する。ゲーム主義者は提示される課題をルールに従い解決することを重視し、純粋な意味でゲームでの勝利を目指す。
  • シミュレーション:世界。ゲーム世界内の要因を重視しメタ要素を排除する。シミュレーション主義者は、ゲーム内の世界観で実際に起こりうるであろう現実性や一貫性を重視し、たとえプレイヤーが知っていたとしてもPCが知らない知識を利用して課題を解決しようとしない。

このようなモデルはゲームの参加者のグループ内での決まりごと(Social Contract)の方針を明確化するのに適しており、プレイヤーのプレイスタイルやGMの判断方針だけでなく、ゲームシステムやメカニクスにも影響する。例えば、D&D(1974~)がゲーム内での勝利条件(ドラゴンを倒し金貨を手に入れる)達成を志向したシステムであることから"ゲーム"的システムである一方で、GURPS(1986)は世界観をゲームとして再現することに特化していることから、"シミュレーション"的なシステムと捉えることができる。

本理論の重要なポイントは以下にまとめられる。

  1.  ゲームには異なる目標(スタンス)が存在する。
  2.  ゲーム内での決定(ルール運用)は3つのいずれかの目標(スタンス)へ向かう一方で、他の目標(スタンス)からは遠ざかる。

本理論は「どのゲームが最も優れているか」という議論の中から生まれたものだが、それらはあくまでスタイルの違いに過ぎないことを説明する。その後、本理論への反論が広く唱えられる中で、Ron Edwardsによる「GNS理論」「Big Model」やScarlet Jesterによる「GENder理論」等の派生理論へと展開していく。

 

参考文献:Wikipedia/John Kim's Archive of Threefold Model discussions

 

TRPGの系譜:ローグライクハーフ(2023)

ローグライクハーフ

  • 通称:Rlh
  • 初版:2023年(日本)
  • 開発者:杉本=ヨハネ/紫隠ねこ
  • 世界観:ファンタジー
  • ワールド名:アランツァ
  • 通貨:金貨
  • 目的:ダンジョンやフィールドを探索して生きて宝物を持ち帰る
  • キャラメイク:副能力値C/能力値P/技能(スキル)C
  • パラメータ:能力値+技能
  • 種族:なし
  • 職業:なし
  • 能力値:技量点/生命点/副能力値(魔術点/幸運点/筋力点/器用点から選択)/従者点(4種)
  • リソース:副能力値
  • ランダマイザー:1D6
  • 判定方法:上方判定
  • クリティカル:出目が最大
  • ファンブル:出目が最小
  • 無限ロール:なし
  • 戦闘時間:なし
  • 重量システム:なし
  • ヒーローポイント:なし
  • キーワード:ローグライク/従者/マップタイル
  • 参考文献:ローグライクハーフ:基本ルール Ver.4.6(無料版)
  • プレイ歴:なし
  • 同時期の作品:ファイナルファンタジー16

TYOVに続いてこちらもソロプレイ可能なTRPG。PCとして2名、GMとして1名の計3名までプレイできるシステム。D66(2D6で2 桁を表現)でランダムイベントを指定(生成)するシステムは、TRPGというよりもゲームブックコンピューターRPGに近いが、ゲームブックよりも自由度が高い。ローグライクの名の通り、クリーチャーとの戦闘と宝物の入手が基本的なイベントの構成要素となっている。基本ルールは無料公開されている。ゲームマスターの負担を軽減し、システムを最小限するよう設計すると到達する一つの完成形とも言える。

 

TRPGの系譜:Thousand Year Old Vampire(2020)

Thousand Year Old Vampire_千歳の吸血鬼

Shut Up & Sit Down - Thousand Year Old Vampire

  • 通称:TYOV
  • 初版:2020年(米国)
  • 開発者:Tim Hutchings
  • 世界観:吸血鬼年代記
  • ワールド名:no data
  • 通貨:no data
  • 目的:ある吸血鬼の生涯を日記に綴る
  • キャラメイク:"体験"×1/定命の"人物"×3/"技能"×3/"資産"×3/"体験"×3/不死の"人物"×1/不死の人物との"体験"×1/"刻印"×1
  • パラメータ:no data
  • 種族:吸血鬼
  • 職業:任意
  • 能力値:記憶/日記/人物/技能/資産/刻印(6種)
  • リソース:記憶+日記+人物+技能+資産
  • ランダマイザー:1D10−1D6
  • 判定方法:ランダマイザー分啓示を進め指示に従う
  • クリティカル:なし
  • ファンブル:なし
  • 無限ロール:なし
  • 戦闘時間:なし
  • 重量システム:なし
  • ヒーローポイント:なし
  • キーワード:ソロジャーナリング/啓示
  • 参考文献:Thousand Year Old Vampire 日本語版PDF
  • プレイ歴:なし
  • 同時期の作品:劇場版「鬼滅の刃」無限列車編

「これはある吸血鬼の忘却の物語である。」

ソロジャーナルTRPGやソロジャーナリングと呼ばれる新しいジャンルのアナログRPGであり、GM不要で一人でプレイできることが特徴である。ソロプレイ可能なTRPGとしてはMAGIUSスタートブック(1995)があるが、ソロジャーナルはプレイヤーによるストリーテリングがより重要であり、プレイヤーはルールに従いジャーナリング(日記のような短い文章を綴る)を行うことで、プレイヤーキャラクターの人生を体験していく。ランダマイザーとしてダイスを使うのは通常のTRPGと共通しているが、「啓示」と呼ばれる短い問いかけをランダムに進めるために用いられる点が異なる。パラグラフに数字が記載されている点はゲームブックに似ているが、「啓示」から具体的にどのような物語を作っていくかはプレイヤーに委ねられており、自由度は大きく異なる。PCのステータスである「記憶」は5つという制限があり、新しい記憶によって古い記憶は失われていく。「人物」「技能」も(その重要性に関わらず)啓示によって容易に失われることで、孤独な不死者の哀愁感や悲愴感を体験することとなる。

TRPGの系譜:ウィザードリィRPG(1988)

ウィザードリィRPG

Amazon.co.jp: ウィザードリィRPG : おもちゃ

  • 通称:no data
  • 初版:1988年(日本)
  • 開発者:安田均グループSNE
  • 世界観:ファンタジー
  • ワールド名:エセルナート
  • 通貨:GP
  • 目的:ダンジョン探索
  • キャラメイク:種族C/性格C/特性値R&P/職業C
  • パラメータ:特性値
  • 種族:人間/エルフ/ドワーフ/ノーム/ホビット
  • 職業:戦士/魔術師/僧侶/司教/盗賊/君主/侍/忍者
  • 能力値:体力/知性/敬虔/生命力/敏捷/幸運(6種)
  • リソース:HP+呪文回数
  • ランダマイザー:D100
  • 判定方法:下方判定
  • クリティカル:出目が5以下で絶対成功
  • ファンブル:出目が96以上で絶対失敗
  • 無限ロール:なし
  • 戦闘時間:20秒/Round
  • 重量システム:あり
  • ヒーローポイント:なし
  • キーワード:アーマークラス/性格/転職/名匠カシナート
  • 参考文献:WikipediaWizardry RPG OutLaw edition/ゲームカタログ@Wiki
  • プレイ歴:なし
  • 同時期の作品:ファイナルファンタジーII

コンピューターゲームの黎明期に誕生しその後のRPGのフォーマットとなった、3Dダンジョン探索型ファンタジーRPGWizardry」をベースにした和製TRPG。元々当時絶大な人気を誇ったAdvance D&D(1977)を一人でも遊べるようにコンピューターRPGにしたものがWizardry(1981米国, 1985日本)であり、性格(アライメント)、アーマークラス、呪文回数制限等にその名残が見られる。それをさらに日本でTRPGに変換したものが本作だが、「それならAD&Dでいいじゃん」とならないのがTRPGの面白いところである。コンピューターRPG要素を取り込むことで独特な世界観を作り上げているのかもしれない。種族、職業で役割が方向づけられるのは一般的だが、転職システムを採用しており上級職になるには特性値の条件を満たす必要がある。行為判定はパーセンタイルロールを採用。マハリト/デュマピックなど独自の魔法体系も魅力の一つ。

TRPGの系譜:セブン=フォートレス(1996)

セブン=フォートレスRPGホビージャパンBOX版)

駿河屋 -<中古>セブン=フォートレス スタートセット(テーブルトークRPG)

  • 通称:SFT
  • 初版:1996年(日本)* 発表は1991年
  • 開発者:菊池たけし
  • 世界観:ヒロイックファンタジー
  • ワールド名:ラース=フェリア
  • 通貨:金貨(Gp)/銀貨(Sp)/銅貨(Cp)/青銅貨(Bp)
  • 目的:探索者となり新たな危機に常に瀕している世界を救ったりする
  • キャラメイク:属性R/クラスC/特徴&特殊能力R/魔法C/剣技C
  • パラメータ:能力値+特殊能力+魔法/剣技
  • 種族:no data
  • 職業:ウォーリア/ライトウォーリア /ヘヴィウォーリア/メイジ /プリースト /メイジウォーリア/プリーストウォーリア /ディバインウォーリア/エクセレントウォーリア
  • 能力値:筋力/器用/敏捷/精神/知力/信仰/知覚/幸運(8種)
  • リソース:耐久力+魔法力+バーニングポイント
  • ランダマイザー:2D6
  • 判定方法:上方判定
  • クリティカル:事前にPC毎にロールで決定
  • ファンブル:事前にPC毎にロールで決定
  • 無限ロール:あり(クリティカル)
  • 戦闘時間:no data
  • 重量システム:no data
  • ヒーローポイント:バーニングポイント消費で燃えるシチェーションを起こす
  • キーワード:七属性/ライフパス/魔法自作ルール/蟹光線
  • 参考文献:WikipediaWeblio辞書/ピクシブ百科事典
  • プレイ歴:なし
  • 同時期の作品:ドラゴンクエストVI 幻の大地

毎日のように世界の危機にさらされてるラース=フェリア世界で探索者となって魔王を倒したり世界を救ったりするヒロイックファンタジーTRPG。剣が大地を削り魔法が山を砕くような少年漫画的パワーインフレバトルをコンセプトに取り組んでいるため、バランスよりもギャンブル性を重視したデザインとなっている。豪快なプレイやバーニングポイントの活用など、汎用ルールであるWARPS(1987)の後継的作品となっている。行為判定は2D6をランダマイザとした上方判定であり、クリティカル値を出すことで再ロールが可能となる無限ロールメカニクスを採用している。クリティカルとファンブルは、PC個別に事前に2D6ロールで決定するため、期待値7が最も出やすい。クリティカルもファンブルも出やすくなっており、本ゲームのドラマ性を高めることに一役買っている。セブン=フォートレスでは、7つの属性(空/炎/森/海/闇/氷/幻)が重要な意味を持っており、キャラクターメイキングでもまず属性を決定する。属性は攻撃時の有利不利(耐性や弱点)にも影響し、のちに国産RPGで一般化する属性効果の草分け的存在ともいえる。テイストとしてはコメディ色の強いファンタジーであり、明らかに何かをもじった名前の地名や古代秘宝、どこで使うのかわからない特徴や特殊能力、魔法自作システムなど、仲間内の悪ノリを許容するようなシステムとなっている。先行してリリースされたリプレイが人気を博し、「蟹光線イブセマスジー)」などの名言が誕生した。

TRPGの系譜:Shadowrun(1989)

シャドウランShadowrun

  • 通称:SR
  • 初版:1989年(アメリカ)
  • 開発者:Robert N. Charrette/Paul Hume/Tom Dowd
  • 世界観:サイバーパンクファンタジー
  • ワールド名:第六世界(2050年以降の世界)
  • 通貨:クレッドスティック/新円(ニューエン)
  • 目的:高額の報酬と引き換えに非合法的活動を請け負う
  • キャラメイク:種族C/能力値P/エッジP/技能P/特質P/コンタクトP/財産P
  • パラメータ:能力値+技能
  • 種族:ヒューマン/エルフ/ドワーフ/オーク/トロール
  • 職業:シャドウランナー(ストリートサムライ/デッカー/リガー/フェイス/魔法使い/アデプト/テクノマンサーなどのアーキタイプがある)
  • 能力値:筋力/敏捷力/強靭力/反応力/論理力/直観力/意志力/魅力(8種)+魔力
  • リソース:コンディションモニター/エッジ
  • ランダマイザー:nD6
  • 判定方法:上方判定(個数カウント)
  • クリティカル:クリティカルサクセス/ヒット数が4以上多い場合ボーナス
  • ファンブルグリッチ):過半数が1の目の場合トラブル発生、行為判定失敗のグリッチはクリティカルグリッチとなり想定される最悪の事態が起こる(第5版)
  • 無限ロール:なし
  • 戦闘時間:3秒/ターン
  • 重量システム:あり
  • ヒーローポイント:エッジ(判定のやり直し/達成値の上積み/戦闘時の行動順と行動回数増加/キャラクターの死亡の回避)
  • キーワード:Building Points/エッセンス/日本帝国/ダイスプール
  • 参考文献:Wikipedia/米の保管庫/シャドウラン・キャラクターメイキングサポート/Shadowrun Quick Start Rules
  • プレイ歴:あり
  • 同時期の作品:ネクタリス

シャドウラン」とは非合法的な一連の活動を意味する。巨大企業に支配され人間が番号で管理される社会で、PCはその枠外にいる人材シャドウランナーとなり非合法活動を請け負う。「古代の魔法が蘇った近未来SF世界」を舞台にしたゲームで、サイバーパンクにファンタジーが融合したような独特の世界観を持つ。行為判定は、複数のD6をロールして5, 6の目をカウントする個数カウント方式。キャラクターメイキングはBuilding Pointsを割り振る方式で、上級者向けと言える。エッセンスとは人間性を表すパラメータで、人体改造を行うことで低下する。

 

 

TRPGの系譜:ブルーフォレスト物語(1990)

ブルーフォレスト物語ツクダホビー版)

  • 通称:BFS/ブルフォレ/青森
  • 初版:1990年(日本)
  • 開発者:伏見健二
  • 世界観:オリエンタルファンタジー
  • ワールド名:遊星エルスフィア・シュリーウェバ地方
  • 通貨:銀貨
  • 目的:世界を旅して見聞を広め、悟りを開いて亜神となる。
  • キャラメイク:能力値R/職業C/魔法C/特技C
  • パラメータ:no data
  • 種族:人間
  • 職業:戦士/騎士/剣士/遊撃兵/闘士/神官/僧侶/修験者/呪術士/魔術士/魔道士/怪盗/義賊/盗人/旅芸人/吟遊詩人/船乗り/職人/行商人/薬師/学師/従者/森の民/海の民/野の民/市民
  • 能力値:体位/筋力/反射/容姿/知恵/器用など(7種)
  • リソース:HP
  • ランダマイザー:1D100
  • 判定方法:下方判定(段階的難易度)
  • クリティカル:no data
  • ファンブル:致命的失敗
  • 無限ロール:no data
  • 戦闘時間:no data
  • 重量システム:no data
  • ヒーローポイント:no data
  • キーワード:悟り値/寿命/力切り・命中切り/転職/ゴブリナ
  • 参考文献:Wikipedia/このごろ堂/Fujigami Imagination Laboratory
  • プレイ歴:なし
  • 同時期の作品:サンサーラ・ナーガ

独自のオリエンタルテイストを持つファンタジーTRPG。ダイスロールで決定された能力値の条件を満たす職業を選択し、職業によって装備や魔法に制限がつく。能力値が上昇し条件を満たせば転職も可能である。成長しやすく成長上限に到達するのも早いのが特徴で、ショートキャンペーンに向いている。行為判定は、ギア・アンティークと同じパーセンタイルロールと複数回ロール&成功を組み合わせる方法が採用されている。マジックポイントがなく、魔法は制限なく発動できる強大な力だが、ファンブルで暴走するなどリスクも大きい。特徴的なルールである「悟り」は、行為判定時に悟り値以下の目が出た場合必ず成功となり悟り値が1上昇するというもので、プレイするごとに行為判定の成功率は上がるが、悟り値が70を超えると亜神となりキャラクターロストとなる。また、キャラクターごとに設定されている寿命に到達すると、キャラクターが死亡する「寿命」ルールもある。