役割分担のメカニクス
TRPGでは一人のPCでは解決できない課題を協力して解決し、目標を達成することが醍醐味の一つであり、その際重要になるのが役割分担である。役割分担によって、決して完全ではない一人のPCが活躍できる場面を演出することができる。例えばファンタジー世界では、戦士と魔法使いと盗賊がお互いの弱点を補いながらそれぞれの得意分野を発揮することでクエストを達成する。良い役割分担のメカニクスとは、行為判定などのゲームの進行へ有利もしくは不利となるような直接的な影響を及ぼす、システム的に裏付けされたものを指すべきであろう。
1. 能力/能力値
あるPCが、何が得意で何が不得意か、を表現する方法としてもっとも汎用性があるのが「能力値」である。能力値は、体力、知力、幸運、などの各能力の項目が数値として表されたものであり、高い能力値は出目の修正や難易度の低減などによって行為判定を有利にする。能力値はそのPCがどのような場面で活躍しやすいか(もしくはすべてにおいて平均的か)を明快に表現する。
どのような能力が必要とされるかはゲームによって特徴付けられ、そのゲームならではの能力を表現することができる。例えば、James Bond 007の能力値の一つ容貌(Perception)は、数値が高いことは平凡な容姿であり諜報員として優秀であることを示している。イット・ケイム・フロム・ザ・レイト・レイト・レイトショウの能力値「人気」は本作で唯一成長する能力であり、映画出演を通じて人気者になっていくことを表現する。ワースブレイドの能力に、他のTRPGで一般的な「力」がないのは、操兵の力があまりに強大なため、人間にとって意味をなさないからである。能力/能力値の種類は、少なすぎるとキャラクターの特徴付けが単調となり、多すぎると使用する能力と使用しない能力に差が生じるため、通常4〜6種類であることが多い。キャラクターへの特徴付けや取れる行動を明確化するため、スキルが併用されることが多い。
2. クラス
クラス(キャラクタークラス)とは一般的に「職業」と意訳され、クラスを採用したシステムをクラス制と呼ぶ。代表例としては、元祖TRPGのダンジョンズ&ドラゴンズがあり、本作がクラス制を取り入れて成功をおさめたことで、その後多くのTRPGでクラス制が採用されている。クラス制は、直接戦闘は戦士、トラップ解除は盗賊、のように、PCの役割分担を明確に設計しやすいメリットがある。
クラスは、概念としては能力値やスキルの上位にあたり、PCがクラスを選択すると、クラスに応じた能力(能力値補正、クラス特有の特殊能力、装備可能な武器防具など)が自動的に決定される。よってクラスを一種の「キャラクターパッケージ」と捉えることができる。クラス制を導入しているシステムでは、ダンジョンズ&ドラゴンズのように、クラスが成長することで行動の幅が広がるものもある。
またクラス制では、能力だけでなく外見的・社会的・性格的特徴を併せて持たせることが容易であり、これによってキャラクターの取るべき行動のイメージを掴むのに役に立つ。典型的な神官は神の教えを忠実に守ろうとするだろうし、典型的なバーバリアンは敵からの侮辱的な威嚇に武力を持って応えようとするだろう。また、典型的でないことをあえて選択する(大柄な魔法使いなど)ことで、個性を明確にすることもまた有効である。
クラス制は、役割分担が明確でキャラクターメイキングが容易というメリットから多くのTRPGのメカニクスとして採用されているが、同じクラスのキャラクターのデータ的な差別化が難しくなり、マンネリ化しやすいというデメリットもある。その対策の一つとして、多数のクラスから選択できるシステムも考案されており、例えば、Warhammer Fantasy Roleplayingでは、Basic Careerとして60種、Advanced Careerとして53種から職業を選択できる。
3. スキル
キャラクターの個性として重要なのはどのような職業を選択したかではなく、何ができるかである、という考え方から誕生したのがスキル制である。スキルはPCの能力を複数のスキル(技能)で表現するメカニクスであり、スキルを主軸に設計したシステムをスキル制と呼ぶ。スキルの組み合わせによって様々なパターンの特徴を生み出すことができるため、バリエーション豊かなキャラクターを作成することができる。クラス制ではクラスが成長するのに対し、スキル制ではスキルが成長するものが多い。
スキルは様々なタイプがある。
- 特殊な状況で行為判定に有利なボーナスを与える効果を発揮するもの(追跡スキルは追跡時に判定を有利にする)、
- スキルを所有しているもののみが実行できるもの(両手持ちスキルがない場合、両手持ち剣による攻撃ができない)、
- 所有しているだけで効果を発揮するもの(暗視)、
- 特殊な判定を行うもの(スキルを使用した際に1D6分HPが回復する)、
などである。魔法ルールのように、基本的な行為判定とは異なる独自のルールで表現される特技/特殊能力も、広義のスキルと呼ぶことができる。その意味で、スキルは技能/特殊能力/特技など、様々な呼び方で表現されるものが含まれる。
スキル制を採用しているTRPGの例としては、汎用システムベーシックロールプレイングを採用しているルーンクエストやクトゥルフの呼び声、キャラメイクのすべてをポイント割り振りで行うGURPSが代表例である。
スキル制の欠点としては、自由度が高い反面キャラクターメイキングに時間がかかる点が挙げられる。キャラクターの能力を直接的に示すパラメーターとしてスキル制は、能力値と比較すると表現が幅広い、つまり「なんでもあり」であり、いくらでも多くいくらでも複雑にできてしまうため、デザイナーの腕の見せ所である。理想のキャラクターを作成するためにはこれらスキル全体を網羅して理解しておく必要があるため、スキル制を主軸に置いたゲームは上級者向けといえるだろう。
4. 種族
ファンタジー世界のTRPGではしばしばクラスと種族を組み合わせて役割分担に多様性を持たせる。同じパーティに3人の戦士がいたとしても、人間とドワーフとエルフであれば役割は少しづつ違ったものになるだろう。種族は通常先天的に決まるものであり、身体的特徴や文化的背景の違いをより明確に表現することができるため、相手に敵対心を与えにくい容姿や狭い場所に忍びこめる体型といった種族特有の役割分担を持たせるだけでなく、キャラクター同士の交流や葛藤、例えば種族間の仲が極めて悪い歴史を持つ、等を演出するのにも有効である。種族もクラス同様、各種族に応じた能力(能力値補正、種族特有の特殊能力、装備可能な武器防具など)がセットで与えられるため、「キャラクターパッケージ」と捉えることができる。
5. マルチクラス/クラスチェンジ
種族が先天的であるのに対し、クラスは後天的に身につけるものである。キャラクターの人生の経験の中で、複数のクラスを習得したり、心境の変化でクラスを変更(転職)したりすることは十分考えられることである。そのため、クラス制はマルチクラス制やクラスチェンジ制などの派生メカニクスによって、PCの個性にさらに幅をもたせることに合理的な説明を与える。
マルチクラス制の例としては、ソード・ワールドRPGが挙げられる。クラスを技能と呼んでいるため分かりづらいが、実質的にクラスは複数スキルのパッケージと言える。その他、F.E.A.R.作品であるトーキョーN◎VAやダブルクロスはマルチクラス制である。クラスチェンジ制の例としては、Warhammer Fantasy Role-playingや、アリアンロッドRPGが挙げられる。
6. サンプルキャラクター
TRPGはキャラクターメイキングに時間がかかる。冒険の様々なシチェーションへの対応を想定し、プレイヤーが愛着を感じられるキャラクターを作成しようとするにつれなおさら時間がかかる。このことは、プレイ人口が少なく常に初心者勧誘の必要に迫られてきたTRPGにおいて、長年の課題でありつづけてきた(ほぼ全てのTRPGのルールブックは"TRPGとは"の説明から始まっている)。この課題を解決する最も有効な手段の一つがサンプルキャラクターである。別名として、アーキタイプとも呼ばれる。ゲームマスターがシナリオで活躍できる可能性の高いプレイヤーキャラクターを何名か事前に準備して、選択してもらうプレロールドキャラクターの利点を、システムの段階でゲームデザインとして積極的に取り込んだものであると言える。
キャラクター作成にかかる時間を節約してプレイ自体の時間をより多く取ったり、初心者がキャラメイクにあまり悩まなくて良い、というメリットがある。一方、キャラクターメイキング自体がTRPGの醍醐味の一つであることを考えると、プレイヤーの楽しみの一部が奪われることにもつながる。これらの中間をとって、いいとこ取りをすることもあるが、キャラメイクの自由度の余地が大きくなるほど、クラス制などのキャラクターパッケージに近づいていく。
代表例としては、シャドウラン、トーグ、ベルファール魔法学園、スペオペヒーローズ、Rabits & Ratsなどが挙げられる。近年では、初心者向けとしてサンプルキャラクターから選択できる(クイックスタート等と呼ばれる)一方で、上級者向けに自由にカスタマイズできる(フルスクラッチ等と呼ばれる)といった、両方の方法から選べる方式が標準になってきている。
7. ダブルヒーロー制
全く異なる2種類のPCがペアを作り、それぞれシステム上明確に割り振られた目的や役割を担当してゲームを進行するユニークなメカニクス。主人公格が2パターンあるのでダブルヒーロー制と呼ぶ。究極の役割分担であるといえる。注意点として、原則プレイヤーは偶数人数であることが望ましい。
代表例としては、魔女見習いと魔女猫がコンビを作るウィッチクエストや、ウィッチクエストのコンセプトを基にした、ご近所メルヒェンRPG ピーカーブーが挙げられる。
8. メタ的役割分担
プレイヤーキャラクターの能力や技能によって影響を受ける役割とは別に、パーティ内での役割分担を設定することを規定しているシステムがある。あくまでプレイヤーキャラクターの役割の一部ではあるものの、どちらかといえばプレイヤー自身の役割としての性質が強いことから、メタ的役割分担と呼ぶ。人生ゲームでいえば、銀行家(お金のやり取りを取りまとめる役割であり、ゲームの中の役割という体ではあるもののゲームの勝敗とは一切関係ない)のような役割である。
代表例としては「りゅうたま」の「パーティの役割分担」ルールがあり、リーダー/マッパー/荷物係/日誌係をキャラクターステータスとは別に決定して、冒険の旅を円滑に進行させる。