ゲームブックはアドベンチャーゲームブック、アドベンチャーブックとも呼ばれ、基本的には一人用ゲームとして遊ぶことを目的とした本である。番号がつけられたパラグラフ(段落)で構成されており、ただ番号通りに読み進めていってもストーリーは成り立たないが、パラグラフに記載された指示や読み手の選択によって決定する番号の順序に従って読み進めることで、物語が進行していく。一つのパラグラフに複数の選択肢が提示されることも多く、読み手の決断が物語を生み出す体験ができるのが特徴である。このようなプレイヤーの選択が物語を運命づけるという体験はロールプレイングゲームと相性が良く、とりわけ1970年代から1980年代にかけて登場し、その複雑なルール体系によりハードルが高かったTRPGの、黎明期における入門書としての役割を果たしていたともいえる。
ゲームブックの起源については諸説あるが、ゲームブックの原型ともいうべき「分岐する物語」の登場は1930年代にまでさかのぼる。その後、1970年代に米国で子供向けに出版された”Choose Your Own Adventure”において、いわゆるゲームブックとしての体裁が確立したと言われている。1970年代後半から1980年代にかけて、D&DやT&TといったTRPGと歩調を合わせる形でファンタジーを舞台としたゲームブックが次々と出版され、特に英国で生まれた人気のゲームブックシリーズ、ファイティングファンタジー、ローン・ウルフ、グレイルクエストなどのシリーズは世界的に大ヒットした。日本やフランスでは、これら海外製のゲームブックに触発されたオリジナル版の出版が流行した。しかし、1990年代にコンピューターゲームが普及し、ソロプレイの主流が移行するにしたがってゲームブック市場は衰退した。現在ではゲームブックを書店などで見ることはほとんどできないが、一部ゲームブック風のテキストが特徴のコンピューターゲーム「世界樹の迷宮」シリーズや、「ローグライクハーフ」などのソロジャーナルRPGがその遺伝子を引き継いでいるといえる。
ゲームブックで採用されているいくつかのメカニクスを以下に挙げる。
- 乱数表/パラパラダイス:TRPGが普及する以前のゲームブックの時代はダイスが一般的に流通していなかったことから、本の内部に乱数生成装置を仕込むことが多かった。代表例として乱数表やパラパラダイス(各ページにダイスが印刷されておりランダムににめくったページのダイスを使う)などがある。
- キャラメイク:本編に入る前にPCのキャラクターメイクを行うもの。能力値をダイスロールで決定したり、任意のスキルを選択したりできるものもある。TRPGの楽しみの一つをゲームブックに反映させたもの。
- スキル制:キャラメイクにおいて任意のスキル(特殊能力)を選択できるもの。魔法も含まれる。「”追跡術”を習得している場合は100へ進め」「”精神防御”を習得している場合は体力点を減らさなくてもよい」等、冒険を有利にできるが、どのスキルを選択して冒険を始めるかはいつも悩みどころ。
- パーティー制:通常、ゲームブックは主人公一人で冒険を行うものが多いが、TRPGやコンピューターゲームのように複数人のキャラクターでの冒険を再現したメカニクス。仲間と同行した場合、戦闘力に補正がつけられるもの、仲間の数だけ攻撃回数が増えるものなどがある。
- コンバットチャート:ゲームブック内で敵と戦闘する際、自分の戦闘能力(個性)と乱数(運の要素)から結果を算出して戦闘を処理する方法。TRPGでもよく使用されるメカニクス。
- 時間制:冒険の時間経過を記録し、一定期間内に目的を達成できなければゲームオーバーとするメカニクス。探索型のゲームブックにおいて、経験を稼げたり強力なアイテムが特定のパラグラフに隠されていたりする場合等に、緊張感のあるゲーム進行を読み手に促すことができる。
- 引継ぎ:シリーズものにおいて前巻までの能力やアイテムを引き継いだ状態で開始できるメカニクス。ゲームブックにおける成長要素であり、次の巻を購入するモチベーションになる。重要アイテムが入手できる巻をスキップしてしまうとその後の冒険の難易度が格段に上がる。
- チェックリスト:パラグラフ総数の節約の方法の一つ。キーアイテムの入手、イベント発生などの条件を達成している場合、チェックリスト(例えばA-1など)にチェックを入れておき、同じパラグラフでチェックの有無によってストーリーが分岐する仕掛けである。「聖水を持っていれば200へ進め」「黒騎士アレスをすでに倒していれば48へ進め」等でも分岐を作成することはできるが、チェックリストは直接的なネタバレを回避できるメリットがある。
- リドル:次のパラグラフの番号の指示を何らかのなぞ解きを行うことで導き出すメカニクス。例として「この謎解きの答えとなる番号ヘ進め」などがある。謎解きができなければ先に進めなくなるケースもあるため、非常に厄介。
- パラグラフシフト:特定の条件下でパラグラフの番号に一定の補正をかけたパラグラフの番号へ進むことができるメカニクス。「彼が合言葉を言った場合、パラグラフ数に20を足した番号へ進め」など。通常、読み手に有利な情報を提供する。一種のリドルであるが複数回適用できる。
- リバース:パラグラフ総数の節約の方法の一つ。ある共通して用いるパラグラフ(魔法の効果を説明するなど)へ誘導したのちに、元のパラグラフに戻したい場合、「ひとつ前のパラグラフに戻れ」「指を挟んだ場所に戻れ」と指示するもの。元の番号を忘れてしまった場合は最初からやり直す羽目になるので悲惨である。
- デスパラグラフ:「あなたの冒険はここで終わる」等、次の指示がない行き止まりのパラグラフ。パラグラフ節約のため使いまわされることも多いため、何度かプレイすると見覚えのある番号なので結末が予想できてしまうことがある。代表例としては、グレイルクエストシリーズのパラグラフ「14へ行け」がある。これは不吉な数字13の次という意味があるらしい。